ポップミュージックと二つの切り口 (1) ー ポップスの「居住性」

饒舌な男が好きな女を前にすると急に無口になる。
職場で目立たぬ一会社員がアフターファイブははっちゃける。

人にはそれぞれ自分が出しゃばることが出来る場所があるような気がする。
そういう意味では「書く」というフィールドにおいて唯一僕が出しゃばることが出来るジャンルは自然と音楽に限られる。

音楽で何を書こうか。そんなことを思いながら、朝の支度をする。

朝は元々苦手だ。一発でスッと起きられたためしがない。
その上、低血圧ときている。
高校生の時なんか、目覚めてすぐ立つもんだからフラフラして実家の階段から落ちたもんだ。今も階段の踊り場には拳ほどの穴が開いている。直してくれればいいのに、見せしめだろうか、ずっと開いたままだ。
そんなことはどうでもいい。実家に帰ったときに深く反省すれば良い。
ーーーーー雨だ。

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気圧を敏感に感じるうえ、天気が何となくその日の心象風景そのものになってしまう僕としては、雨は本当に滅入ってしまう。戦う前から負けフラグだ。
それでもいかねばならない。
そうして、うんざりしながら付けたウォークマンから流れた一曲に心が軽くなった。
今日一日ずっとエンドレスリピートしていた。


音楽、特にポップスと呼ばれる向きの音楽において僕が評価軸として大事にしているのは「居住性」「再現性」だ。
「おい、若造の癖に生意気を。『再現性』は百歩譲っていいとして、『居住性』とは何だ。お前は急に良いミニバンについてでも語る気か」ーーーーーなどと耳の肥えた読者諸兄からお叱りを受けそうであるが、間違えなく居住性だ。居心地の良さ。

よく「アーバンな音楽」(もしかするとアーバン、という言葉自体死語のカテゴリーに片足を突っ込んでいるやも知れないが)という触れ込みのライナーノーツを見かける。
僕が初めて見たのは中学生の時。EPOの「土曜の夜はパラダイス」あたりを聴いていて何かで「アーバン」と見かけた。いや、確かにアーバンなんだけれども。


EPO  土曜の夜はパラダイス

音楽ヲタクだけでなく鉄道ヲタクな北山少年は、当時「アーバン」の含まれる語彙はせいぜい住んでいた関西の広域都市圏を意味するJR西日本アーバンネットワークくらいしか知らず、「へえ、こういう使い方もあるのか」といたく感心したものだ。

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(現在のJR西日本京阪神エリア図。今Wikipediaを見ると「アーバンネットワーク」という呼称は2006年当たりを境に無くなったようだ)

その頃は感心する程度だったが今改めて考えると、「アーバン」はその当時の都会の空気感(それに少しの希望的憧憬も加えて)を上手く纏って作品の世界に無理なく没入させてくれる余地を持つ作品なのだろうなと感じたりもする。

今朝僕を憂鬱な気持ちから救ってくれた一曲もそうだ。
南波志帆が歌う、「コバルトブルー」という曲。イントロから分厚い昔のアルバムを開くような印象的なピアノが曲の世界に誘ってくれる。南波志帆のヴォーカルも非常に居心地がよい。

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南波志帆、自身のレーベルから最高傑作『meets sparkjoy』を4月6日に発売 - TOWER RECORDS ONLINE

(写真TOWER RECORDS ONLINEサイトより引用)

作詞・作曲は現役大学生にして新進気鋭のシティポップスの旗手、ブルー・ペパーズ。
自分たちの名前と提供曲の色彩が一致するのは偶然なのだろうか。
新アルバム「meets sparkjoy」、それからブルー・ペパーズについてもまた後日のエントリーで掘り下げていきたい次第である。

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「良質のポップスとは何か?」ーーーこの問いはそう簡単に解決しそうにないが、「居住性」というヒントを与えてくれたこの佳作に感謝しながら、初めてのエントリーはこれくらいにしておこうと思う。
次回はもうひとつのキーワード、再現性について。
お楽しみに。

 

ビタミンEPO

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meets sparkjoy

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ブルー・ペパーズ EP

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